東南アジアのティモール諸島に生えるサンタル樹の一種。心材に芳香がある。檀香の代表的な香木であるが、厳密には樹心と根部の黄褐色に近いものが黄檀、材の白色のものが白檀と呼ばれる。香木として用いられたほか、仏像の材料としても使われた。なお紫壇は、サンタル樹とはまったくの別種である紫檀樹からとれるが、古くから檀香の一種とみなされている。
中国経由での西アジア移出
13世紀のアラビアの医学者イブン・アルバイタールは「サンダルは中国からもたらされる[香]木であり、それには白、黄と赤の三種類があって、そのすべては[さまざまな用途に]利用される」と説明している。13世紀以前には、白檀を含む3種の檀香は中国市場を経由して西アジア方面に移出されていたことがうかがえる。
日本における白檀輸入
日本にも8世紀以前には白檀が移入されており、奈良の法隆寺には白檀2点が伝わっている。また平安中期の『新猿楽記』にも宋からの輸入品として沈香や麝香、竜脳などとともに白檀がみえる。薫物合わせなどに使う香としての需要などがあったものと思われる。
最高級の白檀
ディマシュキーは12世紀頃に著した『商業賛美に関する提案の書』の中で、西アジア市場にもたらされる白檀の最高級品を「マカースィル」産としている。白檀の最高級品がマカースィル産のものであることは、ガズナ朝の博物学者ビールーニや先述のイブン・アルバイタール、旅行家イブン・バットゥータなどの記録にもみえる。
イブン・バットゥータによると、インドでは祭礼や儀式のときに好んでマカースィル産白檀が使われ、説教檀(ミンバル)などの家具材や、身体に塗布する油香、薫香などに用いられたという。
なお、この最高級の白檀産地として知られた「マカースィル」とは、スラウェシ島南部のマカッサルを指していると考えられている。ティモール産白檀がマカッサル人あるいはマカッサルの港を経由して移出されたため、マカッサルの名が産地として伝わったと推測される。
白檀の産地、ティモル諸島
さらに時代が下ると、白檀の産地について正確な情報が知られるようになる。16世紀のアルマフリーの記録では、ジャワ島東端の島々を総称してティームール、別名「サンダル(白檀)の島々」と呼んでいる。
ほぼ同時代のポルトガル人トメ・ピレスも、ジャワの東にある白檀の出る二つの島を「ティモル諸島」と呼ぶ、としている。続けてティモル諸島での白檀の交易について、「二つの島には非常に多量の白檀があり、値段もたいへん安い。」としている(『東方諸国記』)。
またマレー商人が、神はティモルを白檀のために創ったと語っていること、ティモル諸島にはマラカとジャオア(ジャワ)から毎年船が行き、マラッカに白檀がもたらされることを記している(『東方諸国記』)。
マラッカを経由する白檀流通
マラッカに集積された白檀は、洋の東西から集まる商人たちによってさらに世界各地に運搬された。
ピレスの著した『東方諸国記』によれば、インド・アラビア方面ではアデンやベンガルの商人らがマラッカから白檀を持ち帰っているとされる。またシナ(中国)へもマラッカ王国からの朝貢の品として胡椒や白檀、沈香などが贈られていることがみえる。