戦国日本の津々浦々 ライト版

港町から廻る戦国時代。そこに生きた人々、取引された商品も紹介します。

大石火矢 おおいしびや

 戦国期、後装式の大砲である仏郎機砲は石火矢と呼ばれたが、17世紀初頭、オランダから移入された前装式の大型砲は「大石火矢」と呼ばれた。その大きさは従来の石火矢(仏郎機砲)と隔絶するものだった。ただし大型の仏郎機砲を指して「大石火矢」とする場合も少なくないと思われる。

紅夷の巨砲

 『明史』*1によれば、1601年(慶長六年)にルソン島からオランダの「大西洋船」が中国に来航。明朝はこの時オランダ船から「紅夷」と呼ばれる「巨礮」(巨砲)を得た。『明史』はこの紅夷砲について、以下のように記している。

長二丈餘、重者至三千斤、能洞裂石城、震数十里

 長さ6.5m余り、重さは1800Kgに換算できる。まさしく「巨砲」である。その威力は石城を破壊し、数十里を震わせたという。

 紅夷砲は17世紀を代表する大型の新型火器で、強力な破壊力と長い射程距離、高い命中精度を誇る点で従来の火器よりも飛躍的に優れた性能を有していた。前装砲(弾薬を前部から装填する構造)であるため、銃筒壁をいっそう厚くすることが可能であり、重い砲弾を安全により遠くに発射することができた。

 後に明朝はマカオポルトガル当局から紅夷砲を購入。北方の女真族との戦いに投入している。

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リーフデ号の漂着

 明朝が紅夷砲を手に入れる前年の慶長五年(1600)一月、豊後国にオランダ船リーフデ号が漂着する。ポルトガル人のディオゴ・デ・コウト『アジア史』によれば、この船には19門の青銅製の火砲と多数の鉄砲、砲弾、火薬が積まれていた。

 徳川家康はリーフデ号を堺に廻送させた後、関東にある自領の港へ運ばせ、武器と火薬を含む積荷をことごとく接収した(『日本諸国記』)。この時、乗組員の砲手も関東に移動させられたという(『アジア史』)。

 リーフデ号に搭載されていた大砲も、紅夷砲のような前装式の最新鋭大砲だった可能性がある。

阿蘭陀大石火矢

 慶長十九年(1614)十一月二十七日、徳川家康長崎奉行の長谷川藤広から「阿蘭陀大石火矢」12門が、まもなく渡来するとの報告を受けた(「大坂冬陣記」)。十二月七日、大石火矢は播磨国兵庫に到着している(「駿府記」)。

 なお「当代記」によれば、大石火矢は「おらんど」(オランダ)から直接輸入したものであり、玉の重さは「四貫目五貫目」(15〜18.5kg)もあったという。大坂冬の陣に際し、今井宗薫が持ってきた石火矢が「五六百目」(1.87〜2.22kg)であったとされるので(「駿府記」)、この大石火矢が、いかに巨大なものであったかが知れる。

 翌慶長二十年(1615)二月二十八日、徳川家臣・牧野信成は近江国友の国友兵四郎らに宛てた書状の中で、絵図にしてオランダ国に発注した鉄炮十二挺が大坂に届いたことを伝え、この鉄炮を国友で錐を通し、なおかつ台金物などを取り付けることを依頼している。

 「阿蘭陀大石火矢」12門は、日本からオランダに絵図(おそらく大砲の仕様書)を添えて注文したものであった。日本に到着後、国友鍛治によって銃腔の研磨や台金物の取り付けが行われ、仕上げられたことが分かる。

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イギリスからの輸入

 1614年(慶長十九年)十二月五日付でリチャード・コックスが平戸からイギリス東インド会社に送った書簡に以下のような記載がある。

皇帝は4門のカルバリン砲(four cuiverins)と1門のセーカー砲(one saker)を1400両にて、火薬10樽を184両にて、また鉛600本の重量1万1000斤、1斤6分の割合を以って、690両にて買い上げたり

 カルバリン砲は中口径の前装式大砲。セーカー砲はカルバリン砲よりも小型の大砲で、これも前装式である。家康がイギリスからも前装式の大砲を買い付けていたことが分かる。なおイギリス東インド会社は、これより前の同年6月にも、鉛と大砲(ordnance)そして火薬を駿河へ運んでいる。

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参考文献

  • 宇田川武久 『真説 鉄砲伝来』 平凡社 2006
  • 上野淳也 「大砲伝来ー日本における佛朗機砲の伝播と需要についてー」(平尾良光・飯沼賢司・村井章介 編 『別府大学文化財研究所企画シリーズ③「ヒトとモノと環境が語る」 大航海時代の日本と金属交易』 思文閣出版 2014)
  • 久芳崇 「明末における新式火器の導入と京営」(『東アジアの兵器革命 十六世紀中国に渡った日本の鉄砲』 吉川弘文館 2010)

史籍雑纂 「当代記」 慶長十九年十二月四日条(国立国会図書館デジタルコレクション)

*1:『明史』巻92、巻325