戦国日本の津々浦々 ライト版

港町から廻る戦国時代。そこに生きた人々、取引された商品も紹介します。

薬屋 与三右衛門 くすりや よそうえもん

 和泉堺の商人。天文二十一年(1552)頃の九月、宗光ら堺商人衆の使者として厳島に赴き、宗光の書状を大願寺に届けた。

堺商人たちの交渉

  宗光は大願寺に対し、先に大内氏重臣陶晴賢が堺商人衆に宛てた判物を「薬屋之与三右衛門」に渡すよう求め、自らは翌年の三月に厳島に下ることを伝えている。

 これは当時、堺商人衆と陶晴賢との間で交渉されていた駄別安堵料の納入に関するやり取りであったとみられる。大内氏は、海賊が商船から徴収していた駄別料を停止させる見返りとして、駄別安堵料の納付を求めていた。

 また書状の中で宗光は、「當年之儀者海上も不静候」と述べている。これは堺商人衆が下向せずに、代理として与三右衛門が派遣された背景を説明している。駄別料停止に反発する能島村上氏ら海賊衆の商船襲撃があったと推定される。

厳島での薬種取引

  厳島への使者として選ばれた与三右衛門は、頻繁に厳島で商売をしていた商人であったとみられる。天文十二年(1543)頃、厳島客人社社家・田親尊が法会の際に新しく薬座を出したい旨を大内氏に愁訴している。厳島では薬種が取引されていたことが分かる。

 薬種は輸入品であり、当時の厳島には薩摩や日向から唐荷(輸入品)を運ぶ京や堺の商人らが寄港していた。このことから与三右衛門も、このような薬種の輸入に関わった薬種商であったと推定される。

参考文献

  • 鈴木敦子「地域市場としての厳島門前町と流通」(『日本中世社会の流通構造』) 校倉書房 2000