戦国日本の津々浦々 ライト版

港町から廻る戦国時代。そこに生きた人々、取引された商品も紹介します。

楠 くす

 中世、鈴鹿川河口部のデルタ地帯に位置した港町。知多半島をはじめ、伊勢湾沿岸各港を結ぶ水運で栄えた。

伊勢守護の拠点

 室町期、楠には伊勢守護・一色氏の「本警固」(伊勢守護が公式に設置した海関)が置かれていた。伊勢湾水運の要衝であったとともに、伊勢守護の海上支配の拠点でもあった。

尾張大野への渡航

  16世紀の楠の水運の活況は、諸紀行文からも推定することが出来る。天文十三年(1544)閏十一月、京から東国へ向かう連歌師・谷宗牧は浜田から楠に至り、国人・楠氏が用意した船で対岸の大野へ渡っている(『東国紀行』)。その船には「札狩」(海賊による臨検)に対処するため大野の豪族・佐治左馬允以下、多数の警固の侍が同乗していた。

 楠と大野の密接な交流がうかがえるとともに、当時の伊勢湾が海賊の播居する危険な海でもあったことが分かる。

篠島への渡航

  また弘治二年(1556)九月、千草峠から楠に入った大納言・山科言継は、才松九郎衛門の宿に泊まり、翌々日、才松氏の船で、九郎衛門を「上乗」として「志々島」(篠島)に渡航している(『言継卿記』)。

 この時、篠島到着時に礼として「舟ちん五十疋」を支払っている。船賃については「常百疋余出スベキ儀ナリ」とも記されていることから、当時、少なくとも楠と篠島間には日常的に船が運航していたとみられる。

 また才松氏が自分の船を有し、乗船もしていることから、同氏の宿は船宿であったとみられる。

参考文献