戦国日本の津々浦々 ライト版

港町から廻る戦国時代。そこに生きた人々、取引された商品も紹介します。

カステラ かすてら

 と小麦粉、砂糖を混ぜた生地を焼いた菓子。16世紀後半以降、来日したヨーロッパ人宣教師らによって伝えられたとみられる。

カステラの語源

 カステラの語源は諸説あるが、イベリア半島カスティーリャ王国イスパニアを構成する国家の一つ)に由来するとする説が有力。

 宝永元年(1704)刊行の『長崎虫眼鏡』には「日本渡海御停止国々」として「阿媽港、呂宋、いすはにや、ほるとがる、かすてら、まんていら、ぱはやん、ゑげれす」が挙げられ、「右ハ南ばん人と号し則切支丹国也」と書かれている。当時の長崎で「かすてら」が、ポルトガルイスパニアとならぶ国名として認識されていたことがうかがえる。

カステラのルーツ

 カステラのルーツの一つが、イスパニアビスコチョであるといわれる。ビスコチョは卵、小麦粉、砂糖の生地をオーブンで焼いた菓子で、素材、製法ともにカステラに類似している。

  ただ元々のビスコチョは、イースト菌を使わずに二度焼きしたパンであった。現在のように卵や砂糖を使ったビスコチョが、史料上で確認できるのは16世紀末。1592年に、菓子職人ミゲル・デ・バエーサが著した本にビスコチョのレシピが載せられており、ビスコチョは砂糖と卵でできているので、健康な人にも病人にも好ましい食物であると記されている。

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日本への伝来

 日本におけるカステラの文献上の初見は、寛永二年(1625)に小瀬甫庵が著した『太閤記』とされる。この書によれば、 フィリピンにおいて宣教師たちは 「下戸には、かすていら、ぼうる、かるめひる、あるへい糖、こんへい糖など」でもてなして布教していたという。

 弘化三年(1846)に刊行された『原城記事』にも、弘治三年(1557)頃、宣教師が「角寺鉄異老(かすていら)」などを客に与えていたとの記述がある。ヨーロッパ人宣教師のキリスト教布教の過程で日本にカステラが伝来したことがうかがえる。

カステラのレシピ

 17世紀前半頃の『南蛮料理書』には、「かすてほう路」のレシピが記載されているが、ほぼ現在のカステラの作り方と同様であることが分かる。

卵十個に砂糖六十匁(約600グラム)、麦の粉百六十匁、以上をこねる。鍋に紙を敷き、粉をふり、その上にこねたものを入れ、上下に火を置いて焼く。口伝がある。

 また正徳二年(1712)成立の『和漢三才図会』巻105造醸類では、加須底羅(かすていら)の造法について下記のように記している。

浄麪(きれいな小麦粉)一升、白沙糖二斤、雞卵八箇ノ肉汁ヲ用テ溲和シ、銅鍋ヲ以て炭火ニテ熬(い)って黄色にせしむ。竹針ヲ用いて窠孔ヲ為し、火気ヲ中ニ透ラしめる。取出切用最も上品なり。

高級なお菓子

 卵と砂糖をふんだんに使ったカステラは、ビスコチョがそうであったように、日本でも高級菓子であった。

 寛永三年(1626)に後水尾院が二条城に行幸された際、九月六日の七五三御本(最高級のもてなし)と九月九日の朝の献立の中に、カステラがあった(『後水尾院行幸之折之献立』)。カステラが天皇の饗応に用いられていたことがわかる。寛永十二年(1635)九月に明正天皇が父の後水尾上皇の仙洞御所へ行幸した際の御用菓子の通帳にも「かすてら」の記述がある(『院御所様行幸之御菓子通』)。

  天皇の饗応以外では、寛永七年(1630)の将軍の薩摩藩邸への御成の際に、家老衆へのふるまいとしてカステラが出されている(『徳川将軍江戸藩邸御成記』)。以後、饗応の献立や贈り物としてカステラが史料上で散見されるようになる。

各地への伝播

 カステラは当初は九州中心に作られていたとみられるが、17世紀後半には日本各地に広まっていた。天和三年(1683)の『桔梗屋菓子銘』は江戸の日本橋本町の京菓子桔梗屋河内大掾の記録であるが、そこには「かすていら」をはじめ、「こんぺい糖」、「あるへい糖」、「丸ほうる」、「かるめいら」などの南蛮菓子も挙げられている。

  長崎では、西川如見が享保四年(1719)に著した『長崎夜話草』に、長崎土産として挙げた南蛮菓子の中にカステラボウルがみえる。この頃にはカステラが長崎土産として売られていたのだろう。

参考文献

  • ホセ・ゴロチャテギ「ビスコチョの歴史」(『カステラ文化誌全書〜East meets West〜』平凡社 1995)
  • 江後迪子「文献からひもとくカステラの歴史」(『カステラ文化誌全書〜East meets West〜』平凡社 1995)

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和食器の上のカステラ from「写真AC」

倭漢三才図会 : 105巻首1巻尾1巻 [81] 国立国会図書館デジタルコレクション