戦国日本の津々浦々 ライト版

港町から廻る戦国時代。そこに生きた人々、取引された商品も紹介します。

茶碗「馬蝗絆」 ばこうはん

 緑水色の青磁の茶碗(青磁輪花碗)。高台周りのひび割れをホッチキスのように鎹(かすがい)で留めて修理してある。張りのある曲線を描いて立ち上がる姿の優美さ、わずかに緑をふくんだ青磁釉の美しさを持つ。

無二の名品

  享保十七年(1727)、儒者・伊藤東涯が記した『馬蝗絆左甌記』によれば、平安末期、平重盛が中国(南宋杭州・育王山の仏照禅師に黄金を寄付した際、その返礼として贈られた名品とされる。その後、将軍・足利義政に伝来したとき、ひび割れが生じたので中国(明)に送り、かわりを求めたが、これに代わる名品は作れないとして、鉄の鎹で修理して返送されたという。

 「馬蝗」とは馬の背中にとまった蝗(いなご)であり、中国で鎹の意味でも使われるため、この銘がついた。平重盛所持の確証はないものの、実際の制作年代も12~13世紀と推定されている。義政以降は吉田宗臨、角倉家、室町三井家に伝わった。

鎹で修理された陶磁器

  朝倉氏の本拠・一乗谷の遺跡からは馬蝗絆のように鎹で修理されたとみられる陶磁器が出土している。これは同遺跡から出土した百五十万点の陶磁器の中でも、中国河北省定窯で焼かれた12世紀頃の瓜型と輪花型の鉢、14世紀の青磁の下蕪の花生と片口という四点のみにみられる。これらは一乗谷全盛期の16世紀においても価値の高い骨董品であり、室町期の唐物数寄の中でも特別に評判が高かった。

 通常、漆を糊代わりにして修理するところを、わざわざ目立つ鎹を用いていることから、器の価値を誇示する目的もあったと推定される。

参考文献

  • 小野正敏 『戦国城下町の考古学 一乗谷からのメッセージ』 講談社 1997

大正名器鑑 第6編 国立国会図書館デジタルコレクション